そしてこのジョージは、その前、アメーリアの友人として紹介されたベッキーが「アメーリアの結婚相手にふさわしいか確かめようと思って」と軽口を叩いたときに、こう答える 「家庭教師風情が、確かめるだと?」 このジョージは、否定的な形象ばかりなされる しかし、そもそも「ムラート」なる奴隷商人の娘との結婚を上院議員になれる、と紹介したのは彼の父である A governess is all very well, but I'd rather have a lady for my sister-in-law. I'm a liberal man; but I've proper pride, and know my own station: 「ガヴァネスだってよろしい、だけど私は自分の義理の妹になる人間には淑女がいい」 「私はリベラルな人間だ、だけど私にもprideがあり、私のあるべき場所を知っている」
<dare>という単語は間違いなくこの小説で重要である いまや慣用句と化したこの言葉は、この分裂しかけている父親と息子に強烈な亀裂を刻む "How dare you, sir, mention that person's name before Miss Swartz to-day, in my drawing-room? I ask you, sir, how dare you do it?" "Stop, sir," says George, "don't say dare, sir. Dare isn't a word to be used to a Captain in the British Army." このくだりは当初まったく意味がわからなかった 「いったいどうして、シュワーツ嬢が居間にきているのにその名前(アメーリア) をあえて口に出すのだ?、息子よ(Sir)、一体全体どうしてそんなことを?」 「やめてください、父上(Sir)、dareという言葉を私に使わないでください。dareとは英国軍隊の大尉に使うべき言葉ではありません」
dare:常識に反して、あえて苦言を呈する この言葉は、この時代、常に、目上の者から目下のものに「あえて〜しない」という否定形で使われる "I shall say what I like to my son, sir. 「私は自分の息子にはdareを使う、sir」互いにsir呼び合う親子、自分を尊敬しろと主張する息子
her daring liberal opinionsを。ベッキーは当てにする 既存秩序を「あえて踏み越える」リベラル(結果は、ロマンスは小説の中だけでいい、という裏切られる)
A Pair of Blue Eyes(1872-73)を読み始めた まだ匿名の連載発表で、Far from Madding Crowdのひとつ前の作品 舞台は、ウェセックスの中でも最もロンドンから遠い、北コーンウォール地方になっている ほとんどイギリスの先端に近い地方で、ハーディ自身が序文でthe region of dream and mysteryと表現する 幽霊のような鳥、墓を覆っているような海、凍える風、そして永遠に続く独白めいた水のざわめきが支配する陰鬱な地方
ヒロインの父は牧師で、教会の修理を担当しに来た建築家の主人公を当初は歓迎する 良家の出身と勘違いしたとはいえ、家に招き、娘との交際も許す、暖かい父親のように見える ところが、主人公の父親が同じ地域の石工(mason)にすぎないことを知ったとたん豹変する I have been deluded and disgraced by having him here, the son of one of my village peasants
He, a villager's son; and we, Swancourts, connections of the Luxellians. What shall I next invite here, I wonder! いったいこの牧師は、村民の息子を家に招くだけでここまで激高しなくてはならないのか? 貧しい農民たちを訪ねる聖職者たちとは似ても似つかない強烈な階級意識が好ましい描写をされてきた人物に宿っていることが露呈する
このヒロインの父親はハーディの聖職者の中で一際強烈な選民思想を抱いている その背景は、この小説の舞台が辺境の中でも最も遠いところに位置していることも影響しているのだろう そしてwe, Swancourts, connections of the Luxelliansという、自分たちは高貴な血(Blue blood)に連なるものだという意識 しかし、彼自身には高貴な血は流れていない Mr. Smith, I congratulate you upon your blood; blue blood, sir; and, upon my life, a very desirable colour 当初主人公を「高貴な血」と勘違いした彼は、主人公の血を称え、青を自分にとってvery desirable colourとした それはヒロインの眼の色でもある
<怒り狂う群衆のくだらない争いから遠くはなれて> 酔わされることのない望みは惑うこともなく 隔離された冷ややかな谷間に生きているように 静謐な彼らの生きざまを保っていた <Far from the madding crowd's >ignoble strife, Their sober wishes never learned to stray; Along the cool sequestered vale of life They kept the noiseless tenor of their way.
even though my words are badly selected and commonplace,’ she said impatiently. ‘Because I utter commonplace words, you must not suppose I think only commonplace この発言・異議申し立てはcommonplaceな言葉でつづられた彼女の小説を、ありきたりだ、と批評したナイトに対して、独創的な存在感を印象付ける場面で出現する 一部分を切り出せば、「誰かに先どられた」「ありきたりの言葉」でありながら、ナイトが始めて彼女に恋するのは「類を見ないさま」においてである
A Pair of Blue Eyesをほぼ読み終わる 舞台はハーディが描いたウェセックス地方の中でもっとも遠い崖のある土地 牧師という言葉は、プロテスタントの聖職者をあらわすが、ことイギリスにおいては国教会の聖職者はカトリックの神父という名称に近い vicarやvicarageという、国教会の牧師に対してのみ使われる言葉は、非国教会の牧師に使われるminister、preacherとは大きく異なる たとえばFar From Madding Crowdで、「伝統的な国教会の信徒に比べて、非国教会の信徒が天国に近いのは分かりきったことだ」といわれるように、 ハーディの描く国教会徒は清貧ではなく、寛容ではなく、そして出世欲から無縁ではない 「熱のない人」で、厳格だけれど好ましいピューリタンの牧師(minister)が、世間一般の王党派と交わる陽気な女性になってしまうなんて!とポーラを嘆いた そして同時にポーラを洗礼を直前で拒否されても案じ、宗教論争を吹っかけてくるサマセットに対しても友誼を結ぶ
「私の父のなりわいは何だと思いますか?」 「なにか、専門的なお仕事とか、職業でしょう」 「いいえ、石工(メイソン)です」 「フリーメイソン?」 「いいえ、コテージに住んでいて(cottager)、ただのjourneyman masonですよ」 エルフリードは最初何も言わなかった。少しして、彼女はささやいた。 「それって思っても見なかったこと(That is a strange idea to me)だけど、気にしないで、それが何だというの?」 このfor a whileが重く、彼女は自分の言葉に酔わされ、父を説得できると自信を持つ しかし、この地方においてcottagerと彼女の社会的地位の違いは感情では乗り超えられない
cottagerを調べると、囲い込み運動の前後で意味が少し変わっているようだ after the Enclosures Act the cottager was a farm labourer without land. 農場で働く、土地のない民 journeymanのほうは、journeyはフランス語で一日から来ており、本来の意味は日雇いの職人でフリーメイソンの一員になれるような立場ではない 見習い(apparenticeship) 一人前(journeyman) 親方(master) 実のところは、彼はmaster masonと呼ばれる、日雇いから親方に移行しつつある石工ではあるが、日雇いで主人公を育ててきたことには変わりはない ようやく石工として商業にたずさわり、一家を成した両親の会話は訛りだらけの表現になっている そして、村八分、とはいえないまでも差別されていることの明らかな夫婦が突然もてはやされるようになるラストの描写はおかしみを隠せない 石工を公然と差別する世界においても、「富と名声」を得た息子が出現する(新聞に載る)と手のひらを返すほどには俗物社会が浸透している世界であることが分かる ところが、「日曜日にはいつでも私どもの家に来てください、専用のカップを用意しておきます」という手のひら返しがあっても、主人公が本当に求める手のひら返しだけはえられない 最後のパートの直前に、如何に主人公が(世俗において)上昇したか、第二パートの「知られることを求めない」「高貴な」求婚者を凌駕するかを描写した挙句に、それが無意味と化する環境を畳み掛ける 第三パートにおいて、父と母が突然厚遇される一章は落差の強調とともに非常に効果的な描写を含む
地形的平行主義、反復と的確なプロットによる登場人物のperceptionの急な変化 “Hardy did a thousand times better what I am trying to do,” he wrote, marveling at the “admirable geometrical parallelism” he created, the use of repetition and superposition and the way the perception of a character changes so swiftly. Marcel Proust to Robert de Billy プルーストは、ハーディの小説でみられる石工が切り出した石を組み合わせるように、完璧なプロットを作り、反復や平行を作るさまを賞賛する ハーディ自身、この「青い瞳」が同時代でもっとも巧みなプロットを持つ小説と賞賛を受けた、と喜んでいる 「失われたときをもとめて」には主人公に決定的な体験を引き起こすものとしてマドレーヌ、エルスチールの絵画、そしてヴァントゥイユの楽曲が出てくる このヴァントゥイユのわずか1フレーズがまずスワンに決定的な体験をさせたもので、小説を読み進めるごとに数十年をかけてこの楽曲が進化していく それは徐々に伴奏・多重奏と複雑化していき、全体との調和において輝く反復される主題となっていく ハーディの小説は、岩石でできた島に高く石が積み重なっていくように、あるテーマが折り重ねることができるとプルーストは言う これはラスキンという二人の共通点、高く積み重ねていく建築に1フレーズの「意図」を凝視する特質が現れている(ルーアン大聖堂のたった一つの石彫刻の苦悶する男を捜し求めたプルースト) まさに、ハーディの小説は小説内においても小説間においても折りたたみ、積み重ねられている
Under the Greenwood Tree: A Rural Painting of the Dutch School(1872年)を読み始めた Desperate Remedyの次の二作目の小説で、「青い瞳」の前の作品でタイトルはシェイクスピアの「お気に召すまま」から Under the greenwood tree Who loves to lie with me, And tune his merry note Unto the sweet bird's throat Come hither, come hither, come hither! Here shall he see No enemy But winter and rough weather. この小説は、連載小説ではなく冬、春、夏、秋の四部と最後の「結び」に分けられている 最後の文章に、この「お気に召すまま」の引用が現れる From a neighbouring thicket was suddenly heard to issue in a loud, musical, and liquid voice “Tippiwit! swe-e-et! ki-ki-ki! Come hither, come hither, come hither!” “O, ‘tis the nightingale,” murmured she, and thought of a secret she would never tell. 主人公はこの一節を思い出して、唐突に「わたしは自分の秘密を決して明かすまい」と心の中で思い、小説は閉じられる
レズリー・スティーブンがこの小説を読んで「Far from Madding Crowd」の連載を持ちかけたのは有名だが、同時並行で書いていたのが「青い瞳」 主人公Fancy Dayの秘密は、まさに青い瞳のElfride Swancourtが隠そうとした秘密(過去の婚約)と同じものである 「Far from Madding Crowd」や「A Laodecean」の締めくくりと共通する、読者を考え込ませずにはおかない不穏な終わり方は反復されている(ナイチンゲールは詩の象徴として以上に、色濃く死を告げる鳥でもある) この秘密が露見したときにどうなるのか、より正確にはFancy Dayは牧歌的な結婚式の間中何を考えているのか
牧歌的な、ハッピーエンドを書いた小説として自然の描写が高く評価された小説らしい しかし、不穏な自然の描写、ミツバチの虐殺、狂気に陥った継母など不穏な要素が水面下にあふれている Fancy(移り気な)という名を与えられた女主人公は女学校教師で、オルガンの技能によって聖歌隊の弦楽器を追放することになる闖入者である Fancyはエルフリードと比べてはるかに内面の吐露の描写が少ないが、時折異常に追い詰められたかのような嘆息を漏らす 新年に実家に帰って、Dickと一緒に学校に戻ってきたとき、彼のお茶を入れて親密な雰囲気が漂う中で、「誰も私にかまってくれない」 “Nobody seems to care about me”外を見つめて突然もらされるこの言葉は、Dickは地主が気にかけるのでは、というが、そうではない、とするだけでこの言葉の意味は読者には宙吊りにされる (このような、説明をしないで次の場面にいく箇所が比較的多い)
Fancyは婚約しながらほかの男の突然の求婚に応じてしまう場面の直前でこの女性への呪詛を一瞬だけ漏らす how weary she was of living alone: how unbearable it would be to return to Yalbury under the rule of her strange-tempered step-mother it was far better to be married to anybody than do that 結婚しないで生きることは頭のおかしな継母のルールのもとで生きることで、誰とだろうと結婚するほうがいい、結婚までの8ヶ月を生きなくてはならないとは (「誰も私にかまってくれない」と言う言葉も、「実家から」帰った直後だった)
最初にDickからの求愛でも、も彼女の心を捕らえたのは「妻」という言葉だった acute observer might have noticed about her breast, as the word ‘wife’ fell from Dick’s lips, 愛よりも、結婚を優先するFancyがほんの少し表層に浮かび上がっている
Dickはsimpleな男であり、心理を表す外見に決して気づかないのはFancyがとにかく気づく、空気を読む特性と反対である このようなことはテキストの表面からは隠されており、単に移り気な、flirt(火遊び)をする女として、そしてその秘密を隠す女として現れる 翌日には、男に手紙を書き、「虚栄とambition」からうなづいてしまったと断る 男は、婚約者に全てを告白なさい、彼は許すでしょう、と最後の手紙を送るが、彼女は秘密の暴露がsimpleなDickには耐えられないと判断し、胸に秘めることを決意する そして急速に俗人じみて、結婚式よりもミツバチを優先するような夫と、結婚式にも来ない継母と、土着的な村人たちの中で生きていくだろう ‘Tis to be, and here goes!
牧歌的、とされる素朴な村人たちは、自分たちの領分を侵すものには容赦のない反応を見せる 聖歌隊を廃止する牧師につめよるさまや、地主への悪態、男性のみの聖歌に参入してくる女子生徒たちの合唱への敵意は多彩なスラングで表明される Fancyは「thee」とか「thou」なんてrespectableな人はいいません、とか舅に「ボクシンググローブのような」白い手袋をhallmark of respectabilityとして付けさせたりする 「見世物のように街に腕を組んで繰り出したくない」 Fancyの思いとは裏腹に、「昔からしてきたんだから」と慣習に囲まれ、肝心の夫は蜜蜂が思いもかけず巣分けできたから遅刻する Fancyは最終的には「空気を読み」ほとんど全て夫と田園のしきたりに従う 夫は結婚前、両親を見て「どうして夫婦というものは愛情を表に出さなくなる?」と言っていた Fancy, he and she would never be so dreadfully practical and undemonstrative of the Passion as his father and mother were. 既に結婚式と言うPassionの極地にあってさえ蜜蜂=富を優先するdreadfully practicalな男に変貌している 結婚式には牧師が欠席し、廃止されたはずの聖歌隊の昔ながらのどんちゃん騒ぎで、不気味なきのこが枝の間に自生し、鳥や動物が巣を作る巨大な緑の木の陰で結婚は完成する
Far from Madding Crowdで、本人はごく僅かにしか登場しないが、村民たちの会話に繰り返し登場するThirdly Parsonは引き裂かれた英国キリスト教の代表的な人物である この人物は宗派に限らず、好意的に受け止められており、清貧と伝統に足の着いた、「無関心な世紀における」まっとうな牧師だろう
一作目の「Desperate Remedy」を読み始める ジョージ・メレディスの忠告を受けて、最初の出版された小説ということになるが、最初に執筆した小説ではない 作家の処女作に全てがある、という俗説に従うならば、おそらくハーディの処女作はこの作品ではなく「貴婦人と貧乏人」なる失われた小説だろう あまりにも、過激すぎる、プロットに拘りすぎる、と出版を拒否された小説が、題材を同じくして分割され、三つの初期小説に結実する それが「Desperate Remedy」と「Under the Greenwood Tree」と「A Pair of Blue Eyes」の初期三部作となる おそらくハーディの中では人気のない、「Hand of Ethelberta」と「A Laodicean」という二つの小説につながるのがこのデビュー作にあたる
「窮余の策」では、「青い瞳」と同じようにあっという間にプロットは進んでいく 教会の四角い窓から尖塔が見えて作業をしている建築家や石工が見える シルエットが少しずつはっきりしてきて、父親であることが分かった直後、何かに気を取られているかのようなその影は足を滑らせて視界から消える ‘It is so dangerous to be absent-minded up there.’ When she had done murmuring the words her father indecisively laid hold of one of the scaffold-poles, as if to test its strength, then let it go and stepped back. In stepping, his foot slipped. An instant of doubling forward and sideways, and he reeled off into the air, immediately disappearing downwards.
僅か数行で決定的な事件は起こり、主人公は失神し、気づいたときには奇妙な車に乗せられて家に運び込まれる そのほんの少し前にはもうひとつの、より不幸な積荷が同じドアをくぐった後だった through which another and sadder burden had been carried but a few instants before あまりにも、淡々と流れるように絵画の説明をしているような描写で話が進んでいく
父親が負債を残していることを知り、兄と二人で暮らしていく主人公は、「零落した父をもつ娘」の常としてガヴァネスを目指す しかし、地元を離れて交友もなく、18歳に過ぎない主人公は世間知らずそのものである 自分を高く見せるべきだ、という(これまた世間知らずの)兄の意見を受けて最初に載せた広告が ‘A YOUNG LADY is desirous of meeting with an engagement as governess or companion. She is competent to teach English, French, and Music. Satisfactory references <「若い淑女」がガヴァネスかコンパニオンとして契約するために会うことを望んでいる。英語フランス語音楽教授に秀で、満足のできる保証人あり> ‘That can’t be myself; how odd I look!’ she said 「この文面は私自身にはとても見えない、なんて奇妙な!」 言葉と対象の乖離は繰り返し出てくるテーマ
ガヴァネスとして「役に立つ」バラ色の未来を夢見るも、連絡をくれる雇い主は現れず、降りていく階級を示唆するかのように、次々に広告の文面を変えていく Cytherea was vexed at her temerity in having represented to the world that so inexperienced a being as herself was a qualified governess
2週間後に、より下層の謙虚な試みの文面humbler attemptが作成される ‘NURSERY GOVERNESS OR USEFUL COMPANION. A young person wishes to hear of a situation in either of the above capacities. Salary very moderate. She is a good needle-woman <幼い子供のガヴァネスか、役に立つコンパニオン 若い人物が上記の役割のある環境について聞きたいと願っています。給金は安くてかまいません。針子も得意です。>
さらに一週間が過ぎ、自分の世間知らずさを自責し、「役に立たなさ」に苛まれた寂しい文面となる ‘LADY’S-MAID. Inexperienced. Age eighteen. <女中。経験なし。18歳。> Owen the respectable ? looked blank astonishment. He repeated in a nameless, varying tone, the two words? ? ‘Lady’s-maid!’ これなら応募が来るだろうと自信たっぷりに、悲しそうに、苦々しそうに見せた文面は兄を(respectableな) 驚愕させる ‘But you, Cytherea?’ ‘Yes, I? who am I?’ 虚飾を捨て、自分にできることは淑女の小間使いでしかない さらに兄の懇願で「経験なし」を削った三つ目の広告に、ようやく応募が来る ただしその雇い主は「経験豊富な」小間使いを求めていたもので、せっかく自分の身の丈に合った文面を考えた妹を裏切るものだったが (父や母がいたら、そんな常識の無いことはしないでしょう、とたしなめられ、さらに親戚の方とか、とあげ、全ていないと答えた娘は同情をえることになる) ‘But your mother knew what was right, I suppose?’ ‘I have no mother, madam.’ ‘Your father, then?’ ‘I have no father.’ ‘Well,’ she said, more softly, ‘your sisters, aunts, or cousins.’ ‘They didn’t think anything about it.’ ‘You didn’t ask them, I suppose.’ ‘No.’ ‘You should have done so, then. Why didn’t you?’ ‘Because I haven’t any of them, either.’
Miss Aldclyffe showed her surprise.‘You deserve forgiveness then at any rate, child,’ she said, in a sort of drily-kind tone. このchildという呼びかけに、女主人の「孤児への同情」が垣間見え、19世紀的な「感情革命」の一員であることが伺える
「緑樹の陰で」には、足を見れば誰の足か分かる、という靴屋が登場する 誰もが靴を作るときには彼のところに行くので看板が無く、女主人公の「美しい足型」を男たちでたたえるフェティッシュな場面がある しかし、「秋」の最終章で無一文だったDickが「手を広げる」ために運搬屋として名刺を作成する場面があり、そうと知らずに恋敵に名刺を渡す(プロット上は不必要といってもいい)シーンがある Furniture, Coals, Potatoes, Live and Dead Stock, removed to any distance on the shortest notice. 「どんなに遠い距離でも、家具でも石炭でもポテトでも生きてるものでも死んでるものでもご連絡しだいすぐに」 ここにも「知らないところまでも届いてしまう」広告や看板のいかがわしさがあり、ハーディにおいては「手紙・小説・書かれたもの」とauthorityのテーマにつながっていく
結局主人公を雇うことになる女主人もまた、実情と広告の乖離を咎めるとともに、どことなくいかがわしさを持っている I want an experienced maid who knows all the usual duties of the office.’ She was going to add, ‘Though I like your appearance,’ 「求める文面」と「実際に要求すること」、小間使いを頻繁に変え、身元保証人に確認しますといいながら、「あの顔が気に入った」という理由で確認の手紙を破棄する She’s an extraordinary picture of womankind ? very extraordinary.’ She has had seven lady’s-maids this last twelvemonth in her soul she’s as solitary as Robinson Crusoe as proud as a lucifer 彼女もまた、「顔を見れば分かる」と広告のごまかしを無視する Under the Greenwood Treeにおいて、 knowing people by their feetという靴屋に対して(足の形はひとつのcharacter)、 ‘tis a face you can hardly gainsay. A very good pink face, Still, only a face, when all is said and done.” 「顔は、何か付け加えてくれることは無い、ただピンクできれいな顔だ、それ以上は無い」
本来役に立つはずの自分が役に立たない状況に立つ、あるいは本来役に立たないはずの自分が役に立つ状況 このとき、登場人物が変貌を見せる 特定の状況下では、過去や未来の時制が入り混じり、相対的な時間が支配する 状況は速やかに、役に立ったはずの自分は既に役に立たない、けれどひとたび役に立った自分を忘れることはできない 忘れるためには別の特権的な、相対的な時間が必要になる ‘NURSERY GOVERNESS OR USEFUL COMPANION. ガヴァネスとして働く屋敷を想像し、「役に立つこと」を求める「窮余の策」 Dick Makes Himself Useful 「緑樹の陰」のなぞめいた章題 I’ll do anything for the benefit of my family, so as to turn my useless life to some practical account. 「青い瞳」で無価値な自分の命が少しでも役に立てるなら、という場面 “If I am useless I will go,” said Bathsheba, in a flagging cadence. “But O, if your life should be lost!” “You are not useless; but I would rather not tire you longer. You have done well.” トロイという男と結婚したBathshebaが、Oakと二人だけusefulとなる場面 何よりも、「青い瞳」で宙吊りになったKnightの命を救い、その成果を誇る An overwhelming rush of exultation at having delivered the man she revered from one of the most terrible forms of death